2017年11月21日火曜日

はじめての奈良旅(8)ならまち散策

ならまちへ、移動する

志賀直哉旧居をあとにして、次は「ならまち」へと向かう。当初の予定ではバスを利用しようと考えていたのだが、今ひとつ適切なバスルートがよくわからなかった。きちんと調べれば見つかったのだろうけれど、マップを見ると15分も歩けば目的地に到着できそうなので徒歩で向かってみることにした。

ならまちへと続く道は、車の数も人通りもまばらなので観光しているというよりも近所を散歩しているという気分になる。しかし駐車している車には奈良のナンバープレート。ここは仙台から数百キロも離れた旅の地なのである。おそらくこの道を歩くのは、これが最初で最後になることだろう。そんなことを考えながら、やや下り気味の道を歩いていると「讃岐うどん」の店から出てきた老夫婦が「おいしかった。ここ正解!」と話しながら僕達の前を横切った。「正解!」という言葉が気になったことと、そろそろ休憩が欲しかったので、その店で少し遅い昼飯にすることにした。さて、その結果は・・・。うまい。うどんはもちろん天ぷらもうまい。たしかに、ここは正解ですね奥さん! と、先ほどの夫婦に心の中でお礼をいいながら食べた。

旅の主食はカロリーメイトと缶コーヒー

学生のころは、旅の時でもファストフードやコンビニのおにぎりで済ませることが多かったし、それで特に疑問も不満も感じなかった。食費よりもガソリン代が優先で、少しでも遠くへ行ってみたいと思っていたからだ。食事はエネルギー補給のために行う行為だから、カロリーメイトと缶コーヒーで必要十分などと嘯いてみたりもしていた。実際に「朝はカロリーメイトのチーズだったから、昼はコーヒーにしよう。しかしコーヒー味のカロリーメイトに缶コーヒーの組み合わせは、さすがにちょっと栄養が偏っているかな」などと、根本的な部分から勘違いをしていたものだった。

しかし最近では「ちょっと、ここへ寄ってみよう」と、カフェでコーヒーを飲むためにバスに乗って出かけたり、行列に並んで順番を待ったりもする。一時間は待てないが四十分くらいならば、普通に並んで順番を待つ。人間は年齢とともに優先順位が変化していくものなのだ、ということを「旅先の食事の変化」から考察してみた。

「正解の食事」を済ませ移動を再開する。途中で「空気ケーキ」という店でケーキを買い、これをどこで食べようか、と話しているうちに「ならまち」へ到着した。ゆるい下り坂になっていたせいか、予想していたよりも早めに到着した。歩くには若干遠いが、バスに乗らずとも歩ける距離でありタクシーを使うまでもないかな、という印象だったので、僕たちと同じように「歩こうか?どうしようか?」と考えている方は参考にしていただきたい。ちなみに歩いている最中に、みかけたタクシーは数台だったのでタクシーを利用する場合は流しでは厳しいかもしれないということも、付け加えておきたい。

ならまちから、興福寺へ

さて「ならまち」である。ここでは「吉田蚊帳」さんに寄って、自分達用とお土産のふきんを買った。飛行機の移動の時は、カバンの中に押し込んでも大丈夫なものを選びたいので、ふきんは最適だと思ったからだ。さきほどの「旅先の食事の変化」と重なるのだが、以前の自分なら「お土産に、ふきん」は選ばなかっただろう。しかし最近では「日常生活の中で、楽しみながら使ってもらえるもの」を、旅の土産として選ぶことも多くなってきた。それに「自分では買わないけれど、もらったらうれしいもの」という要素が加わったのならば、さらによい。やはり年齢と共に優先順位は変化するのだな、とあらためて考察してみた。

ならまちを一渡り歩いたあと、興福寺に向かって歩くことにする。これで朝に出発した地点にまで戻ってきたことになる。一日かけてゆっくりと歩くにはちょうどいい距離だったと思う。心地よい足の疲労感と、歩いて回ったぞ、という達成感のようなものを感じながら、朝に来た時にはまだ開館していなかった興福寺の東金堂へ向かい「四天王像」と「十二神将像」を拝観する。

実は僕が仏像に興味をもったきっかけが、この「四天王像」と「十二神将像」だった。いきいきと、そして力強く、甲冑を身にまとい邪気を踏みつける姿。守るべきもののために、いつでもその力を発揮するぞ、と静かに力を滾らせている姿に魅力を感じたのだった。あまりにも格好がよかったので、四天王像の広目天のフィギュアを購入して、自宅のテレビの横に飾っているくらいである。なぜ広目天かというと・・・と、書き始めると長くなりそうなのでここで止めておく。機会があったならば、またいつかどこかで触れてみたい。

そして当初の予定では、この後、興福寺の国宝館へ寄るつもりだったのだが耐震工事のため休館(平成29年)だったため入館することができなかった。残念。これはきっと「また来るといいよ」と言われているのだろうと考え、また奈良に再訪することを決め、荷物を預けてある宿へと戻ることにする。


気象警報発令

すでに予定の時間は過ぎていたのだが、お土産を買ったり、中川政七商店に立ち寄ったりしながら、のろのろと宿に向かって歩いていると、突然商店街のスピーカーから「台風が近づいているので、注意するように」というような内容のアナウンスが流れた。ノイズ混じりのスピーカーから聞こえる音声はなかなかの迫力である。にわかに周囲がざわざわとしてきたように感じる。早々に片付けを始める店舗も出てきた。心なしか空も暗くなってきたように感じる。少し足を早めて宿に戻り荷物を受け取る。宿の方に電車の運行状況について質問すると「JRは止まることがあるけれど、私鉄が止まっているのは見たことがない」とのこと。「地元の人が大丈夫、と言っているのだから大丈夫だよね」と連れと話しながらも、どこかそわそわした気分で駅へ向かう。

駅に到着し運行状態を確認する。とくに遅延等は発生していないようだ。連れが「すこしお土産を買いたい」と店に入っていったので、手持ち無沙汰になった僕は、駅構内に設置されていた「ようこそ奈良へ!」と書かれたボードの前で「自撮り」をしてみることにした。すこし工夫をして「いかにも自撮り」というような、ちょっと斜に構えた写真を撮った。買い物から戻ってきた連れにそれを見せると(普段、自撮りはしないので)かなりうけた。「今日撮った写真の中で、いちばんいい顔をしてるね」と笑われた。満足した。


自撮りもうけたし、これで思い残すことはない。改札を通り奈良から移動を開始する。目的地は泉佐野。わずか2日間しか過ごしていないのに、一週間以上滞在したような感覚になっているのはなぜだろう。またいつかきっと近いうちに、と奈良へ別れを告げて大阪へと向かう。車窓から見える外の様子は、まだ雨も風もさほど強くないように見える。この調子なら大丈夫だろう、とやや楽観的な気持ちになっていた。ところが、そう。ここから状況は一変する。


はじめての奈良旅(最終回)へつづく