2017年11月22日水曜日

はじめての奈良旅(最終回 さらば奈良)

電車での移動は順調だった。特に混雑も遅延もなく、予定通りの所有時間で目的地に着いた。車内の人たちも平常のようにみえた。向かいの席に座っていた高校生が、スマートフォンを見ながら電車の乗り換えについて相談していた。こちらの方が早い、いやこの方が乗り換えが少ない、奈良で鹿が見たかったなあ、意外と奈良って遠いよな、などと話しているのが聞こえてきた。

ところが宿に到着したあたりから、外の気配が怪しくなってきた。テレビで天気予報を確認すると、夜から朝にかけて台風がこの地域を通過する予想とのこと。その予想を裏付けるかのように、窓を叩く強い雨の音が聞こえてくる。ガタガタカタカタと、窓が鳴る。どんどん風と雨が強くなってきているのが感じられる。交通機関にも影響が出ていて、遅延や運休に関する情報が更新される。各地で台風による被害が出ているというニュースを見るにつけ、どうやら状況は芳しくない方向へ進んでいくように思われた。

スマートフォンで空港までのルートを確認する。飛行場へ向かう電車が運休中と表示された。飛行機の日程を確認すると、すでに運休が決まった路線もある。僕たちが利用する、大阪ー仙台線は今のところフライトの予定になっているけれど、朝になってみないと確定はできないだろう。テレビの画面に映し出される台風の渦は、予想のルートを北上していく。急に方向を変更して太平洋側へ逸れないかとの願いもむなしく、まるで日本列島をトレースするかのように進んでいく。

連れが明日の午後から仙台で予定が入っているため、朝一番の飛行機に乗らないと間に合わない。飛行機が運休になった時のことを考えて、新幹線で移動になった時のプランをシュミレーションしておく。朝一番で新幹線に切り替えたならば、ぎりぎりで予定の時間に間に合いそうだ。こんな時は、最悪の状況を想定して準備をしておけばなんとかなる。前に旅をした時に「お客様の予約はキャンセルになっています」と受付で言われた時に比べたら、全然余裕がある(先方の確認ミスだったので、泊まることができた)。深夜に車で峠道を走行していた際に、マフラーが折れて立ち往生した時の悲壮感に比べたら…いや、あの時は悲壮感というよりは笑うしかなかったが……まだまだリカバリーが効く。

どちらにせよ明日の朝になってみないことには、どうにもならない。まずは風呂に入り、コーヒーを飲み、テレビで天気予報などを眺めながら時間を過ごす。夜の11時を回ったあたりで、他の部屋の宿泊客が慌ただしくチェックインしてくる音が聞こえた。雨で電車が遅れたようだ。あーよかった、早く風呂に入ってしまおう、などと話している声が聞こえてくる。今回宿泊した宿は、昔ながらの旅館で壁が薄いので隣の部屋の会話が聞こえてくる。なんだか学生時代の友人のアパートに来たような気分になる。

ちなみに、この宿の間取りは独特の形をしていたので、ここで触れておきたい。僕たちが通された部屋は長方形ではなく、三角形のような形になっていた。変形八畳の和室ということになるのだろうか。しかし、八畳もあるのに布団を並べて敷くことができないという、なかなか面白い形をしているのだった。畳の形もなかなかに絶妙で、角の部分などは職人の技術が感じられる見事な納まりになっていた。





わりと僕は、このような部屋が嫌いではない。もしも学生時代に、この部屋を見つけていたのならばかなり興味を持ったと思う。「部屋の形がすこしあれだけど、その分家賃が少し安くなるから」などと言ってもらえたのなら「借ります」と即決したかもしれない。友人が遊びにくる度に「この角の台形をした畳が気に入って借りたんだ」と、わかったようなわからないようなことを説明してみせたかもしれない。


そんなことを考えながら、三角形の部屋に布団を敷き横になる。窓はガタガタ言う。外を走る車の音から察するに、強めの雨も降ってきたようだ。ひとまず寝よう。明日は早めに起きよう。天気のように、どうにもならないことは寝て起きてから様子を見るしかない。



朝になった。外を見ると風は止まっていた。雨も降っていない。スマートフォンで航空会社のホームページを確認すると「条件付き飛行」と表示されている。つまり「一応飛ぶ予定ではあるけれども天候が悪ければ引き返すかもしれません」といったようなことが書かれているわけだ。しかしまあ欠航にならなくてよかった。電車も運行しているようなので、まずは空港に向かうことにする。チェックアウトの後、宿の方と空を見上げながら、「これなら飛行機は飛びますかね」「飛ぶといいですね」「お世話になりました」「ではお気をつけて」と会話を交わす。

電車に乗り関西国際空港へ到着する。控え室やソファーなどで眠っている人の姿が目につく。昨日運休になって飛行機が飛ばなかった人達だろうか? それとも空港に到着するのが遅れて最終便に乗れなかった人たちだろうか。周囲に疲労感のようなものが漂っているような気配がする。さて、自分たちの便は順調に飛ぶのだろうか。途中でひどく揺れたりしないだろうか、と飛行機嫌いの自分は無駄に緊張感を漂わせながら搭乗口へと向かった。

心配は杞憂に終わった。空は晴れ安定した飛行だった。仙台空港へも雨も風もなく穏やかに着陸した。見慣れた仙台空港の文字を見て、ほっとすると同時に、今回の旅も終わったなとしみじみとした。(はじめての奈良旅 おわり)












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