渋温泉で九湯巡りに挑戦 秋の長野を巡る旅(5)

上高地を出て、本日の宿へと向かう。今回選んだのは「 渋温泉 」だ。渋温泉は、長野県の東北の方、野尻湖のやや東に位置する温泉街である。 なぜここを選んだかというと、この渋温泉には 「宿泊客しか利用できない外湯が9つあり」そして「それをすべて巡ると、満願成就」という言い伝えがある という情報を知ったからだ。 こんなに面白そうな温泉があるなら、行くしかない。宿泊客しか利用できないというのもいいじゃないか、と決定したのだった。 温泉宿へは午後の5時くらいについた。すでに、浴衣を着た人たちが、下駄の音を響かせながら温泉街を歩いている。石畳の道に響き渡る下駄の音。自分も早く「あの一員」になりたいと、自然と気分が高まっていく。 宿の部屋は2回の角部屋。温泉街のメインに面していて、お客さんたちが道を歩いている姿を眺めることができる。浴衣にカメラを手にして、何度も立ち止まりながら写真を撮影している人。2階の部屋にまで、会話の内容がはっきりと聞こえるほど大きな声で、ゆっくりと歩いて行く人。母親に手をひかれながら、湯屋に入っていく子供。恋人同士と思われる若い2人組。さまざまな人たちが、下駄の音と一緒に道を歩いていく。 いそいそと浴衣に着替えてから、さっそく 「九湯巡り」の計画 を立てる。一度に9つは、さすがにきつい。夕食の前に3つ。夕食後に3つ。朝一番に3つくらいのペースで巡ろうか、とおおまかな計画を立ててから出発。 ここの九湯巡りには「 巡浴祈願手ぬぐい」 というアイテムがある。その名の通り、外湯の名前が縦に書かれた手ぬぐいで、そこの湯につかった証としてスタンプを押していく仕組みになっている。そして、すべてのスタンプが押された手ぬぐいを持って、最後の仕上げに高台にある高薬師さんに詣でるという流れになっているわけだ。 この手ぬぐいが、九湯巡りの面白さを引き立てていて、もはや湯を楽しむというよりも 「すべてのスタンプを押す」ことが目的 になってしまっているような気がするくらいだ。実際に、風呂に入らずにスタンプだけを押して回っている人や、足先だけにお湯をかけてすぐに外に出てしまう人も、何人か目にした。外湯が利用できるのは、夜の10時まで。そして朝は6時から。人によっては、ひとつの湯を数分で巡らないと間に合わない人もいるだろうから、いきおいそのような巡り方にな