山を歩いた日。

山歩きをしていると、様々な人とすれ違う。
その多くの方とは、「こんにちは」だけで、終わりになってしまうのだけど、水場などで休んでいる時に話しかけられたりすると、ついつい長話に、なることもある。

今日、とある山の水場で出会った方(70代・男性)にも、面白い話を聞かせていただいた。
その方は、単独で登っていたのだけど、70代で単独で登るくらいだから、そうとうの山男で、
若い頃に、会社を一週間休んで、日本アルプスに登った時の話や、当時の整備されていないルートを歩いた時の恐怖体験など、時代背景を感じさせる、興味深い話を聞く事ができた。なかなか話す機会のない年代の方と、共通のテーマでお話しさせていただくことは、とても楽しいし、元気がでる。なるほど、なるほど、と、すっかり聞き役に回って、じっくりと山の話を聞かせていただいた。


15分ほど話しているうちに、急に年齢の話題になっていった。どうやら、その方は、僕のことを、30歳くらいだと思っていたらしくて(いくらなんでも、若過ぎだ!)実年齢を教えると、そうですか、ずいぶん若く見えますね、失礼なことを言ってしまったなぁ、と頭をかくような仕草をされた。そして「でも、若く見られて、損ということはないですよ」と、にっこりとした。

その方によると、僕が若く見えるのは「自由に人生を楽しんでいて」「エネルギーが余って」いるから、なのだそうだ。逆に言えば「人生や仕事を楽しめない人は、すぐにエネルギー切れになり、老け込み、最悪の場合は寿命が短くなってしまうものだ」と、自分の友人を例にあげながら、あの人はこうだった、あいつはこうなった、と「どんなに鍛えていても、死ぬ時はあっさりと死ぬ」と、語ってくださった内容は、とてもリアルで生々しいものがあった。

なかでも、ちょうどこの同じ山に一緒に登っていた友人がいて「じゃあ、また今度!」と、元気に別れた数週間後に、その方が突然亡くなってしまったという話には、思わず息を飲んでしまった。「見た目は、あんなに元気だったのに、寿命が切れると、あっさりと亡くなる」とか「あなたが車を停めていた、ちょうどその横に、その人は車を停めてた」などと言われると、思わず姿勢を正してしまう。水場から聞こえる水が流れる音も、冷気も、ひやりと背中を通り抜けて行くような、気がする。


「それでは、エネルギーを保つには、どうすればいいでしょうか?」と、おもむろに質問してみる。「あなたは、独身か?」と、聞かれる。「そうです」と答えると「奥さんが大切だ」と、言う。む、意外な角度からの答え。さらに質問すると「おだやかに話せて、主人を盛り上げてくれる女性」と結婚すると、エネルギーを減らさずに、夫婦共に若々しく楽しく過ごせるのだそうだ。なるほど。確かに、この方は、奥さんを大切にしていそうだし、奥さんも旦那さんを信頼しているのだろう。小柄だけど、とても70代後半とは思えない、芯の通った立ち姿と、パワフルに活動することができる秘密を、教えていただいたような気がした。

そして「離婚をしてもいいから、子供をつくること」も、重要なポイントとのこと。「一度は、結婚しておいた方がいいですよ」と、あまりにも具体的なメッセージと、流暢な話し方に引き込まれてしまい、うーん、そうなんですね・・・と、山の湧き水を飲みながら30分ほども、話し込んでしまった。


その方と僕は反対の方向へ進むことがわかったので、そこで挨拶をして、失礼をした。その方と別れてからも、言われたことを反芻しながら、一人で歩き続けた。ふいに、後ろを振り返ってみると、2人で話していた水場は、遥か後方の方へと過ぎ去って行ってしまった。もちろん、その方の姿は、もう見えなくなっていたし、もう2度と会うことも、ないだろう。そんな風に考えると、なんだか、さきほどの時間は、本当に「現実」だったのか? もしかすると、山の神様が表われてきて、今の僕に必要なメッセージを伝えてくれたのではないか? と、山中という神秘的な雰囲気が加わったせいか、ちょっと不思議な気分になった山行だった。

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