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上高地を歩く(4の3)河童橋に到着 秋の長野を巡る旅

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ホテルの前を出発。歩きやすく整備された、梓川沿いの道を歩いていくと、先の方で人が集まっているような気配があった。おそらく、あのあたりだろう・・・と思いながら先を急ぐと、あった。 河童橋 だ。 ガイドブックなどで何度も見ていた 河童橋 。その上を、たくさんの人たちが、行き交っている。写真を撮影するために立ち止まっている。 普通これだけ多くの人たちがいれば「観光地」といった雰囲気になってしまうだろう。どことなく、ざわざわとした、活気はあるものの落ち着かないような雰囲気になってしまいがちではないかと思う。 ところが、ここではそのような雰囲気を感じさせない。人は多いけれど「やはりここは山なのだ」という、どこかビシっと引き締まった空気を漂わせている。それは空気の質感なのか、後ろにそびえる穂高岳の姿なのか、透き通る水が豊富に流れ続ける梓川のおかげなのか、一般車両の通行を禁止しているからなのか。それはわからないけれど、とにかく、そのようなものが組み合わさって、この場所が作られているのかな、という感じがする。 梓川の河原に降りて、水に手を浸す。なぜか 「また、ここに来たぞ!」 という気分になる。初めてきたのだから「また」という言葉は不適切なのだけど、なぜか「また」という言葉がぴったりくるような気がする。そして「またくるぞ」という気分にもなってくる。来たばかりなのに「また」が連続で頭に浮かぶというのも、初めての体験に、なんとなく苦笑いをする。 しばらく周辺を散策してから「おいしいコーヒーを飲もう」と、河童橋の目の前にある 五千尺ホテル にはいる。上高地の計画を立てている時から、このホテルでコーヒーを飲もうと決めていた。ちなみに 五千尺ホテルの「 五千尺」とは、上高地の標高1.500m( 五千尺)からきているそうだ。ふいに頭に「アルプス1万尺」のメロディが思い浮かぶ。思い浮かんだだけで、さすがに歌いはしなかったが、陽気な気分のまま、椅子についた。 オーダーをすると、ほどなく皿が目の前のテーブルに運ばれてくる。コーヒーの味そのものを楽しむことと、この場所で飲む、という喜びとが組み合わさって、なんともいえない気分になる。窓の外には、河童橋が見える。たくさんの人たちが、やっては過ぎていく。みんな笑顔だ。とても笑顔だ。 そんな様子を眺めながら、しばらくの間、コ

上高地を歩く(4の2)大正池から自然研究路を通り河童橋へ 秋の長野を巡る旅

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バスは 大正池 で降りた。ここから梓川に沿って、河童橋を目指す「 自然研究路 」というトレッキングコースを歩いていく。 バスを降り、大正池のそばに近づいていく。朝もやが湖面に、ぼんやりと漂っている。 底の底まで見えているのではないか、と思うほどの透明な水 。その上に、穂高連峰の山々がくっきりと映っている。 太陽に力強く照らされた山肌と、まだ静寂を保っている湖面の静けさのコントラストが、現実の世界とは思えないような不可思議な空間を作っている。池に向かって左側に見えるのが焼岳だ。あの山が噴火したことで、この大正池ができたという。 みんな足を止めて、盛んに写真を撮影している。通常の観光地のように、ピースサインをして記念写真を撮っている人たちよりも、山々にレンズを向けて何枚も何枚もシャッターを切っている人の方が多いように思える。ひとしきり山と池の写真を撮影してから、忘れていたかのように記念写真を撮る。ああそうだ、人物の写真も撮っておかないとね、といった感じになってしまうほど、ここの風景は美しく圧倒的な存在感だった。 立ち去りがたい衝動を感じつつ、次の場所へと向かっていく。森の中を抜け、木道の上をポクポクと歩いていく。暑くもなく寒くもない。時折降り注いでくる太陽の光が、普段の光よりも白く鮮烈なものに感じる。ちいさな子供を連れた母親が、先へ先へ行こうとする子供を呼び止める。このような場所では、大人よりも子供の方がずっと元気だ。早く、早く、と道の先の方へと走るようにして進んでいく。 僕は、いつも山歩きをする時は、時間を何度も見て地図と自分の位置を確認するようにしている。山の中で迷うのは一瞬だし、それは大きなトラブルにつながることも多いからだ。 でも、ここ上高地では、ほとんど時計を見ることがなかった。道も整備されているし、たくさんの人が歩いているから、ということもある。時間を確認することで現実の世界に戻りたくなかったのかもしれないし、ただ単に時間を確認するのを忘れていたのかもしれない。そのどちらなのか、もはや自分でもわからないのだけど、気がついたら 田代橋 に到着していた。穂高連峰と梓川の流れを眺めながら、 上高地温泉ホテル の前で小休止をする。 ホテルの売店をのぞくと、ポテトチップスの袋がパンパンにふくれているのを見つけた。気圧の関係なのだろ

上高地へ行く(4の1)シャトルバスに乗って上高地へ 秋の長野を巡る旅

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今回の長野旅行の目的のひとつは「 上高地 へ行く」ことだった。上高地と言っても、登山に興味がない方にはピンとこないかもしれない。実際に妹に「長野へ行く」と話したところ「長野って何があるの?」「上高地へ行くんだ」「ふーん」と、いった感じだった。 しかし、登山好きの人間にとっては日本(北)アルプスの玄関であり「聖地」と言っても言い過ぎではない場所なのである。 数年前に長野に来た時には、オフシーズンだったため、松本市から上高地方面を眺めただけで終わってしまっていたこともあり、今回はとても楽しみにしていた。一番の心配事は天気で、出発時の天気予報では「曇りのち雨」となっていた。アウトドアの大敵は、なんといっても雨。曇りでもいいから、なんとか雨だけは避けてくれ、と願いながら迎えた当日は、なんと抜けるような青空。雨雲なんて視界の端にさえ見えない。すべてが整った。ありがとう、と誰に言うのでもなくつぶやいてから車に乗り込んだ。 現在、上高地へは自然保護の観点から一般車両の乗り入れが禁止されている。自分たちのような一般の人間が上高地入りするには、おおまかにわけて、 1)電車 → バス → 上高地 2)バス → 上高地 3)車 → バス 上高地 のように、何らかの交通機関を利用して上高地入りすることになる。自分の場合は、上高地から降りてきた後、そのまま車で移動する必要があったので、3)のプランで行くことにしていた。今回の 具体的なルートを示すと、 1)安曇野市(ホテル)車で移動 → 2)沢渡(駐車場)バスに乗り換え → 3)上高地 と、いう流れになる。前日に宿泊したホテルのフロントの方に上高地までのルートを質問したところ「途中細い道があるけれど、おおむね走りやすいルート」と教えていただいたのだが、実際に走ってみると、ちゃんと舗装されているしバスも走っているルートなので特に問題なく走行することができた。「松本市から沢渡までは、通常で一時間弱くらいだけどシーズン中は大渋滞する」と聞いていたので、早めに出発(安曇野市を6時に出発)したところ渋滞もなく、1時間30分ほどで 沢渡(さわんど)へ到着 することができた。 到着したのは、午前7時過ぎだったのだけど、すでに駐車場は「ほぼ満車状態」になっていた(実際に、自分が帰るころには『満車』の表示が出ている駐車場

安曇野ちひろ美術館へ 秋の長野を巡る旅(3)

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安曇野ちひろ美術館へ 次に向かったのは「 安曇野ちひろ美術館 」だ。ここでは、入場券の替わりに、写真のような「タグ」が配られる。これを見えるところに下げておくことで入館許可証となる。 何種類かのタグが用意されていたのだけど、自分はこの 少年の絵柄 にした。これを胸のあたりにぶら下げて、展示室へと向かっていく。 まず最初に感じたことは、美術館の建物の雰囲気がとてもいいこと。 開放感がありつつ、作品に集中できる雰囲気になっている 。屋外に設置されている椅子にこしかけると、行きつけのカフェに来ているかのような気分になる。すぐそばを、他のお客さんが次々に通りすぎていくのだけど、それすらも気にならないような感じがする。 長野のゆったりとした空気がそうさせるのか? 建物全体のデザインによるものなのか? いわさきちひろさんの美術館だから? とにかく、そのような様々な要素がくみ合わさって、このような雰囲気を作っているのではないかと思う。 作品を楽しむことが美術館の第一の目的だけど 「そこにいることが、たのしい」 という美術館だと感じた。細やかな部分にまで、コンセプトが浸透している空間だと思った。 小学生のころ「図書館をつくる(そして、そこに住む)のが夢 だったのだけど、いつの日かこのような美術館や図書館をつくる仕事に携わりたいものだ、とあらためて思いました。 原画が発する「迫力」を堪能する そんなことを考えながら、作品を鑑賞しながら回っていく。使い古された表現だけど、やはり 「原画のすごさ」 に圧倒される。印刷をする時には失われてしまう、トーンのやわらかさや穏やかさはもちろん、作者のいわさきちひろさんの思いも、じんわりと伝わってくるような気がしてくる。想像以上のすばらしさだった。 当日(2011.9月)は「ちひろと香月 ー母のまなざし、父のまなざしー」という特別展が催されていた。 香月泰男さんの作品を観たのは初めてだったのだけど、こちらもパワフルで圧倒された。戦争体験という同時代を生きた、お二人に共通の経験をベースにした作品が展示されていた。人を思う気持ち、戦争という失われていく風景への思い、それらがお二人の異なるタッチで表現されていく。あまりにも、やさしくて、そしてせつなげ。美術館へ足を運ぶ楽しみのひとつが、 新しい作家との出

大王わさび農場 秋の長野を巡る旅(2)

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安曇野「 大王わさび農場」へ 今回の長野を巡る旅の初日は 「 安曇野市 」 である。今となっては、なぜ安曇野市に行こうと思ったのか忘れてしまったが、そもそも今回の旅に出かける直前まで、安曇野市のことは、よくわからなかったのだが、気になるということは何か理由があるのだと考え、初日の宿と観光拠点は、ここに決めたのである。 決めてから、周りの人たちに「今度の旅では安曇野市へ行く」と話したところ 「ああ、ドラマの舞台になったところですよね」 というような反応が返ってきた。もちろん自分は、そんなことは知らなかったし、ドラマも見たことがないのだけど、もしかするとどこかで無意識のうちに、その情報を見たのかもしれない。誰かが話しているのを聞いて、頭の中にインプットされたのかもしれない。それはわからないけれど、注目されている場所に行くというのも大切なことなので、わくわくしながら観光を始めることにする。 「わさびソフトクリーム」を、食べよう 長野自動車道の豊科インターから、一般道路へと降りる。最初に向かったのは「 大王わさび 農場 」だ。 黒澤監督が映画のロケに使用したという話や、わさびソフトクリーム などが気になり行ってみることにした。 カーナビで目的地をセットする。インターからは、さほど遠い距離ではない。前を走る松本ナンバーの車を見ながら、のどかな田園風景の道を走る。思っていたよりも交通量が多い。通行した道路が対面一車線だからなのかもしれないが、かなりゆっくりとしたスピードで進む。 数十分ほどで、目的地の駐車場へ到着。駐車場の入口に来てみて、その 車の多さに驚いてしまう 。大型観光バスも数台並んでいる。自分のイメージでは「こじんまりとした、のどかな観光スポット」だったのだけど、どうやらそれは間違っていたようだ。たくさんの人たちが連なって入口に向かって行く様子を見ていると、自然に気分が高揚してくる。 最初に向かったのは、 水車小屋 。とにかく 水の透明度 がすごい。水わさびの育成には「きれいで豊富な水量の水が必要」と、何かで読んだ記憶があるような気がしていたけれど、さもありなん、といった感じだ。河の底でゆらめいている、水草の姿まではっきりと見える。ここで採れる、わさびは美味しいだろうなあ、と思いながら園内を巡っていく。 施設の横のところに