鳴子温泉の共同浴場「滝の湯」へ

鳴子温泉 滝の湯へ


先日、ちょっとした旅の帰りに、鳴子温泉に立ち寄ってみた。もしも自分が、県外から遊びにいらっしゃった方に「宮城県内で、おすすめの温泉は?」と聞かれたならば、「鳴子がいいと思いますよ」と答えるだろう。すこしピリッと感じる、熱くて白く濁ったお湯が、とても心地よい。鄙びた雰囲気の温泉街に漂っている、硫黄の臭いも温泉に来たのだという臨場感を、高めてくれる。まさに自分の中での「温泉」というイメージに、ぴったりの場所だからだ。



駅前から少し離れたところにある、無料駐車場に車を置く。車から降りた途端に、あの独特のにおいが、鼻をついてくる。当日は霧雨が降っていたのだけど、それでもしっかりと臭いが漂ってくる。一気に温泉に来たぞ、という気分になる。いそいそと、タオルを手に持って、目指すは、共同浴場の「滝の湯」。個人的に、鳴子に来たならばここは寄っていただきたい。服を脱ごうとすると、肩がぶつかるような狭い脱衣所に、10人も入ったら満員になりそうな、ちいさな湯船。

いやいや、これは批判しているのではない。いかにも「日本の温泉」という雰囲気を直に感じられる貴重な共同浴場という意味である(ホームページによると「鳴子温泉神社の御神湯として千年の歴史をもつ古湯」とのこと)。木枠から「ザブザブ」と掛け流しになっている、お湯の様子を見るだけでも、気持ちが癒されてくる。これぞ、贅沢と言った感じがする。しかも入浴料金は150円だ。お得すぎる(2010年現在)

せっけんなどはないので、ケロヨンの黄色い洗面器にお湯をためて、頭や身体を、ざぶざぶと洗う。タオルでごしごしと身体をこすっただけでも、日頃の垢が落ちていくような気分になる。おそるおそる(温泉に入る時は、慎重になるのは、なぜなのだろう?)湯船につかる。

記憶の中にある泉質よりも、心なしか穏やかになったような気がする。少し、湯の温度も下がったかな。もちろんそれでも、ここの湯が心地よいことは、かわりない。湯の華が漂っている湯船の中に、ゆっくりとつかっていく。思わず、ふーっ、と息が深くなる。天井を見上げる。身体がふわっと、浮き上がるような感覚になる。

当日は、自分以外に7人ほどの、お客さんがいたのだけど、全員、かなりの長風呂で、何をするわけでもなく、ぼーっと過ごしていた。昔の人達も、ここでこうやって、時間を過ごしたのだろうか、と想像してみる。「あそこの角の娘の名前はなんだったかなー。そうそう、その子が子供を産むらしいよ」などと話したりしたのだろうかと、考えてみる。時には、ちょっとした言い争いなどがあった時に「どれ、ちょっと風呂にでも行こうか」と、仲直りの場所になっていたのかもしれない。

中学生くらいの男子2人が、湯船に入ってきて、少し狭くなったところで、風呂からあがる。雨脚が強くなっていたので、持ってきておいた傘をさして歩く。すれ違う人の姿は、ほとんどない。とても静かだ。仙台市内から、片道2時間の鳴子温泉。秋頃にまた、お湯に入りにこようと思いました。 

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