【文学】漱石山房の冬 芥川龍之介



夏目漱石、芥川龍之介などと聞くと、教科書に載っていた歴史上の人物といった印象が強くて、実際にこの世界に存在していたのだろうか? もしかして架空の人物なのではないだろうか、という気分になる事があります。

もちろん2人はこの世界に存在していて、しかも今私たちが住んでいる日本で生活していたわけです。彼らは約100年前の日本で、どのような時間を過ごしていたのでしょう? 今回紹介するのは、芥川龍之介の「漱石山房の冬」の一節です。ある冬の日に、2人が人がどのような会話をしていたのか、ちょっと覗いてみたいと思います。


又十月の或夜である。わたしはひとりこの書斎に、先生と膝をつき合せてゐた。話題はわたしの身の上だつた。
(漱石山房の冬 芥川龍之介)

「君はまだ年が若いから、さう云ふ危険などは考へてゐまい。それを僕が君の代りに考へて見るとすればだね」と云つた。わたしは今でもその時の先生の微笑を覚えてゐる。いや、暗い軒先の芭蕉の戦も覚えてゐる。しかし先生の訓戒には忠だつたと云ひ切る自信を持たない。(漱石山房の冬 芥川龍之介)


芥川龍之介は、夏目漱石に身の上話をします。それに対して漱石は「僕が君の代わりに考えてみるとすればだね」といった感じで、芥川の立場に立って助言をします。

この時の漱石は、時代を代表する作家先生。後に文豪となる芥川龍之介は、この時点ではまだ若手作家のひとりです。そんな芥川に対し漱石先生は、上から意見を押し付けるわけではなく「君の代わりに考えてみるとだね」と、微笑みながら丁寧に語り掛けている様子が伝わってきます。

相手の自我を尊重し、そこに向き合いながら自分の考えを伝えていく。そして、その言葉を真摯に受け止めようとする芥川龍之介。2人の文豪が夜に語り合っている様子を想像すると、どこか優しい気分になれるような気がします。

そして、このような場面を想像してから、漱石と芥川の作品を読み返すと、またどこか違った気配が背後から感じられるような気がするのでした。


【佐藤ゼミ】漱石山房の冬(芥川龍之介)を読む

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