【宮沢賢治】注文の多い料理店 を読む。(あらすじ解説)
「注文の多い料理店」あらすじ
主人公は「二人の若い紳士」です。二人は「ぴかぴかする鉄砲」をかついで、趣味の狩猟に山に入ったのですが、その日は成果が上がらず道にも迷ってしまいます。案内人ともはぐれてしまい、風も強くなってきて連れてきた犬も死んでしまいます。ほとほと困っていたところ、突然二人の目の前に「西洋料理店 山猫軒」いう札がかかげられたレストランが見えてきます。
これはちょうどいい、と大喜びでそのレストランに入る二人。その店は不思議な構造で、次々に扉を開けながら先に進んでいかなければいけません。そしてその扉には、
「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。」
「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」
「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」
などと、二人に対する指示が書かれています。二人は「作法の厳しい家だ。きっとよほど偉い人たちが、たびたび来るんだ。」と考え、指示に従いながら店の奥に進んでいきます。すると、
「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」
「どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」
「どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」
書かれている内容が不可解なものに変わっていきます。そこでようやく二人は「これは料理を食べさせてくれる店ではなく、自分たちが食材になって食べられる店なのだ」ということに気がつき、探しにきた案内人に救われて命からがら逃げ出して行く。このような話です。
注文の多い料理店は「ユーモラス」な話?
私は、はじめてこの作品を読んだ時、不思議でユーモラスな「おもしろい話」だと感じました。自分たちが食べられる準備をしているのに「ここの主人はじつに用意周到だね。」と、勘違いをしながら先に進んでいく二人の様子が滑稽で、でも「食べられなくてよかったね」とハッピーエンドの物語だと思っていたのです。
ところが、宮沢賢治自身が書いた「注文の多い料理店 新刊案内」には、この作品についてこのように解説されています。
注文の多い料理店
二人の青年紳士が猟に出て路を迷い、「注文の多い料理店」にはいり、その途方もない経営者からかえって注文されていたはなし。糧に乏しい村のこどもらが、都会文明と放恣な階級とに対するやむにやまれない反感です。
二人の青年紳士が猟に出て路を迷い、「注文の多い料理店」にはいり、その途方もない経営者からかえって注文されていたはなし。糧に乏しい村のこどもらが、都会文明と放恣な階級とに対するやむにやまれない反感です。
つまりこの作品は「貧しい地方のこどもたちが、都市で裕福な生活を送る人たちに対する反感」を表現した作品なのだ、ということになります。決してユーモラスな作品ではなく、当時の時代背景を織り込んだシリアスな批評が込められた作品なのですね。
「二千四百円の損害だ」
このような視点を得てから「注文の多い料理店」を読み返すと、最初に読んだ時とはことなった印象を受けることに気がつきます。たとえば、二人が山道に迷った時、連れてきた二匹の犬が死んでしまうのですが、その様子を見た二人はこのような会話を交わします。
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の眼ぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。
「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もうひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。
そして物語の後半、この二匹の犬は息を吹き返し、食べられそうになって泣いて震えている二人のところに戻ってきて、二人をたすけます。「二千四百円の損害」と見捨てた犬たちに、自分の命を救われる。ここにも、作者のメッセージが込められているように私は感じます。
作品を「読み返す」理由
そして「注文の多い料理店」は、このような一文で締めくくられます。
しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。
この「もとのとおりになおりません」という言葉にどこか恐ろしいものを感じるような気がします。二人はこれからの人生を「紙くずのような顔」で生きていく。そこにはもう、これから都会でどんなに豊かな生活をしても決して元通りにはならない。これからの二人は、いちばんたいせつな「なにか」を失ったまま生きて行かなければならない。
このように、宮沢賢治の作品は、読み返すたびに様々な発見があります。童話として「ちょっと不思議で、どこかユーモラスな話」として楽しむことができる。そして今回のように、物語の背後を覗き込むと、シリアスで「ちょっと怖い」世界が横たわっていることに気付いたりする。
これが、宮沢賢治の作品を読み返すおもしろさのひとつであり、子供の時はもちろん、大人になってからも読み返してみたい理由なのです。
【Youtube 佐藤ゼミ】