【はじめての北海道旅 1日目(2)】函館市電に乗って「五稜郭」へ
函館で「市電」に乗ろう
函館で楽しみにしていたのが「市電に乗ること」である。私は仙台市出身なのだが、1976年までは仙台市内でも市電が走っていた。もしかすると親に連れられて市電に乗ったことがあったのかもしれないが、まだ幼い私の記憶の中に「それ」は存在していない。なので今回の旅では、函館市電に乗ろうと決めていた。 函館駅前の停留所で電車を待つ。数分間隔で運行しているので、乗り遅れても焦る必要はない。希望する進行方向の停留所に並んで待っていると、向こう側から電車が走ってくるのが見える。ああ来た来た、と待ち合わせの場所に相手がやってきた時のような気分になる。
中央のドアから乗り、空いていた椅子に腰掛ける。ゴトンゴトンという振動が身体に響く。電車のすぐ横を車が走り抜けていく。車窓から町並みを眺めながら移動できるのが、路面電車の醍醐味である。そして、こうやって多くの函館市民や私たちのような観光客を運んできたのだろう、と思う。
そういえば、とふと思い出す。私が子供だったころ、母親が誰かと「市電にするかバスにするか」と話していたような記憶がある。どちらが便利だろう、と確認していたような気がする。いやこれは本当の記憶ではなく、映画やテレビで見た場面かもしれない。何かの情報が混ざりあって適当な記憶を生成したのかもしれない。今度、母親に聞いてみようかと考える。同時に、いや聞かなくてもいいか、とも思う。
世の中には確認しない方が豊かな気持ちになれることもある。函館で市電に揺られながら、そう考える。
目的地の駅で降りる。路面電車なので、道路の真ん中で下車することになる。周囲の安全を確認し、横断歩道を渡って向こう側へ渡る。初めての場所なので「あっちか? こっちか?」と戸惑ってしまうのだが、観光客っぽい人たちの流れにあわせていくと目的地の方へ進んでいける。基本的に函館市内は、歩いて移動できる範囲に観光スポットが集まっているので、多少迷ってもなんとかなる距離感がいい。町歩きが楽しい場所だと思う。
あの「五稜郭」へ
市電を降りて「五稜郭」へ向かう。若いころ「新撰組」を好きな知人に「函館へ行ってきた。五稜郭へ行って……云々」と感想を聞かされたことがあった。当時の私は、まさか自分が函館へ行くことになるとは思ってもいなかったので、なるほどふんふん、と適当に聞き流してしまっていた。あの時、もう少しちゃんと聞いておけばよかったと思う。知人は今でも新撰組について調べているのだろうか。元気に過ごしていて欲しいと思う。
駅から五稜郭へ向かう途中に、少年と犬がベンチに腰掛けている作品があった。函館市内には魅力的なアート作品が設置されていて目を楽しませてくれるのだが、今回はこちらの作品が印象にのこった。タイトルが「ぼくたちの旅」なので、旅の途中に休憩をしている場面なのだろうか。それとも、行き先を話し合っているのだろうか。2人の静かな会話が聞こえてくるような感じがする。2人の旅に幸あれ、と思う。
ゆるやかな坂道を歩いて行くと、人が集まっている気配がする。その先に目的地の「五稜郭タワー」が建っていた。中に入ると、団体客と思われる人たちでチケット売り場とエレベーターの周辺が混雑して列ができていたので、グッズ売り場を眺めたり、土方歳三のブロンズ像を見上げたり、コナンのスタンプを押したりしながらタイミングを見て上に登った。
展望料金は「大人1.000円」だった。コンビニで前売り券を購入すると、割引価格になるようなのでお勧めである。私は事前に調べておかなかったので、窓口の通常料金で購入した。あらためて「準備」の大切さを再確認する。
なぜ五稜郭は「星形」なのか?
エレベーターから外に出ると、目の前にあの五稜郭の姿が広がっていく。ああ、これ学校の資料集などで見たやつだ、と昔からの知人にようやく会えたような気分になる。五稜郭の星形の形状は、外国への防衛拠点として「どの方からでも2方向から攻撃できる」こと目的に設計された結果である。
つまり「目的」がこの「星形」をデザインしたわけで、星形にしたいからこの形状にしたわけではない。「星形にしたら、観光客が集まるだろう」と集客目的で設計したわけでもない。つまり「形態は機能に従う」ということだろうか。使い方が違っているかもしれないが、そういうことだと思う。
展示物を見ながら、ぐるりと円形のフロアを一周する。周囲に高い建物がないので眺望がいい。函館の街を見渡しつつ、遠くの海まで見える。しばらく風景を堪能したあと、エレベーターで一階に降り、妻が買ってきたソフトクリームを少しもらって食べた。うまい。
今回の北海道旅行では、ソフトクリームを何個食べることになるだろう、と想像する。今回の旅で、体重が1キロ増えるのは覚悟しているが、2キロはいかないように心がけたい。
五稜郭公園から六花亭へ
タワーの外に出て、五稜郭公園を徒歩で回る。函館奉行所の前を通り、スタンプを押して公園内をゆっくりと散歩する予定だったのだが、すでに時間が押していたので園内は足早に移動し「六花亭 五稜郭店」へ移動する。マップを見ながら歩いていくと、駐車場はあるものの入口がわかりにくい。
こちらの方だろうか、とおそるおそる高級料亭の玄関へ続くような通路を奥に進み店内に入る。入口をくぐると、店内の奥の壁は一面大きなガラス張りとなっていて、そこから五稜郭公園が壁に描かれた絵のように眺めることができたる。心地良い解放感。
なるほど、入口の圧迫感はこの演出をデザインするための要素なのだろうな、と深読みをする。妻は店内を周り「おみやげ」を買い始めた。「まだ初日だから荷物を増やさないように買い物は控えよう」と相談していたので、ある程度はセーブしたようだが「ポテトチップス」を買ってしまったので、だいぶかさばってしまったようだ。
あじさいの「塩ラーメン」
六花亭を出て次に向かったのは「函館麺厨房 あじさい」である。妻が「函館は塩ラーメン。ここで塩ラーメンを食べたい」と主張するので、休憩がてら寄ってみたのだった。麺の量を3分の2にすることができたので、それを頼んだ。年齢を重ねると食べる量が減る。その時は美味しく食べられても、しばらくすると胃が不調を訴え始める。旅先のように通常よりも食べる量が多くなる場合は気をつけなければいけない。
以前、旅行代理店の方に「旅先での不調の多くは、食べ過ぎです」と聞かされてから、確かにそうかもしれない、と食の量には気をつけるようにしている。今回もフルにするか3分の2するか迷ったのだが、今後を考えて3分の2を選択したのだった。
注文してすぐにラーメンがテーブルに運ばれた。提供が早いんだな、旅人にはありがたい、と思いながら口にする。うまい。私はラーメンでは、塩ラーメンが一番好きだ。若い頃は、とんこつ派だったが、最近では塩がいい。近所にこの店があれば通いたい、と思う味だった。
食べ終えてから3分の2ではなくフルにすれば良かったかな、と一瞬思ったが胃に聞いてみると「これで十分だ」と答えてきたので満足して店を出た。ここからまた先ほどの駅に戻り、市電に乗り、次の目的地である函館山を目指す。(つづく)