【北海道旅 2日目(4)】ハンバーガーと、赤レンガ倉庫【函館ベイエリア】


坂をくだり、ベイエリアをめざす

 旧函館区公会堂の前には静かな、そして手入れの行き届いた公園が広がっていた。本町公園である。前方には函館港が美しく輝き、振り返れば旧函館区公会堂の姿が見える。ずっと歩き続けて疲れた足を休めたいところだが、すでにこの段階で午後3時を過ぎてしまっていた。休憩は後回しにして、足を先に進めることにする。

 基坂を降り始めるとまもなく、函館市旧イギリス領事館の建物が見えた。私は子供の頃に、シャーロックホームズに夢中になってから、イギリスに行ってみたいと思っていた。それが理由というわけではないと思うのだが、学生の頃に気に入って聴いていた音楽は、イギリスのバンドばかりだった。
 夏目漱石を読むようになってからは、漱石の留学先がイギリスということで、さらに興味が増すようになった。イギリスへ行ってきた、という人がいると感想を聞かせてもらった。

 しかし、イギリスに足を運ぶ機会はなかった。行こうと思えば、行くチャンスはあったかもしれない。この年齢まで行けなかったということは、縁がないのかもしれない。そこで、少しでもイギリスの雰囲気を味わおう、という気分になり、イギリス領事館に寄ることにしたのだった。

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ライラック、と聞くと思い出すこと

 函館市旧イギリス領事館は度重なる火災の後1913年、現在地に再建されたのだそう。
ユニオンジャックが、春の風にはためいている。当時の函館の人たちは、どのような気持ちでこの旗と建物を眺めたのだろう、と想像する。それは私たちが思っているよりも、近くて遠い場所だったのだろうか。おじゃまします、という気分で敷地内に足を進める。

 領事執務室に、リチャード・ユースデン領事が双眼鏡を使って窓の外を眺めている等身大の像が展示されていた。この窓から、こうやって函館の街と海を眺めていたのだろうか。ちなみに、函館公園にイギリスから取り寄せたライラックの苗を植えたのが、リチャード・ユースデン夫人なのだそう。

 ライラックと聞くと、思い出すエピソードがある。私が子供のころ住んでいた家の庭に、ライラックが植えられていた。何かのイベントでいただいた苗木を植えたところ、特に手入れもしないのにすくすくと伸び、毎年綺麗な花を咲かせてくれた。それが子供心にも、とても美しくそして「力強く」感じられたので、自宅で犬を飼うことになった時、ライラックにちなんだ名前をつけたのだった。

 もしかすると、あのライラックの苗木もルーツをたどっていくと、函館のライラックにたどり着くのかもしれない。そんなことを考えると、世界はどこかでかすかにつながっているのかもしれない。いつかもし庭のある家に住むことがあるのならば、またライラックを植えようよ。そんなことを考えたのだった。

 一階の出口付近に「プリンセスフォトスペース」があった。そこには真っ赤な椅子とローブが用意されていて、それを着用して記念写真を撮りことができるのだった。入館した際に、外国人の観光客の方たちが、盛り上がって写真を撮影していたのはこれだったのか。
 せっかくなので、他の観光客が部屋にいないタイミングを見計らい、照れる妻にローブを着てもらい記念写真を撮った。急いでささっと撮ったので見栄えのする写真にはならなかったが、とりあえず記念にはなった、と思う。

港の見えるラッキーピエロで、おそい昼食を

 領事館を出て、ベイエリアの方へ歩いて行く。道も歩きやすく大体10分ほどでベイエリア付近に到着した。函館は、徒歩で散歩して回るにはちょうどいい街だと思う。私たちのように、知らない場所を歩いて回るのが好きな観光客には楽しい街だ。

 そして、この時点で時計の針は午後4時を回っていた。そう、昼食のタイミングを逃してしまったため、この時間になってしまったのだった。休憩もかねて、そろそろ何か食べようと思う。そのような訳で次の目的地は、ラッキーピエロである。
 先ほども書いたが、ラッキーピエロに入店するのはこれで3回目である。前の2回は行列に断念して食べずに店を出てしまったが、さすがに今回は多少混んでいても粘る気持ちでいた。

 私たちが入店した段階でレジには20名ほど並んでいた。どのくらい待つのだろうね、賑やかな彩の店内を見渡しながら並んでいると、思っていたよりするすると列が進み、20分ほどで私たちの順番になった。並んでいる途中にトイレに行こうかと迷ったのだが、そのまま並んでいて正解だった。

 ラッキーピエロ マリーナ店には、その名の通り函館港に面した席がある。せっかくなら、その席に座りたいが、さすがに空いていないだろうな、と諦めていた。それ以前に座れる席があるだろうか、と思っていた位である。ところが時間帯が良かったのか、タイミングが良かったのか、おそらくその両方だと思うのだが、ちょうど窓際の席が1つ空いていたので座ることができた。

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 開放感のある大きな窓、そして青い海。太陽の光が眩しい。そして函館の海を見ながら地元のラッキーピエロのハンバーガーを食べる。旅先で、このようなちょっとした運に恵まれると、旅全体が底上げされるような気分になる。おいしさが2割増になる。さらに私たちは朝から何も食べていなかったので、さらに1割増の合計3割増だ。

 ラッキーピエロのハンバーガーは、ずしりと心地よい重量感があり、ひさしぶりに大きく口を開けてかぶりついた。うまい。高校生の頃のような勢いで、もくもくと一気に食べてしまった。おいしい。函館にいる間に、もう一回ラッキーピエロのハンバーガーを食べたいね、と話をする。最終日に函館に戻って来るので、その時に食べようかと考える。つまりそのくらい気に入ったのだった。

 もしかしたら、ラッキーピエロのハンバーガーを食べることはできないかもしれない、とさえ思っていたのだが、こうやって最高のシチュエーションを用意してもらえたのだから、結果よしである。遅い昼食、というか、祖父母の世代だと早めの夕食、というくらいの時間帯になってしまったが、勝負は下駄を履くまでわからない、というわけだ。つまりそういうことだ。

日本最古のコンクリート電柱で、時間の流れに指で触れる

 本日の予定は、ベイエリア周辺を散歩しておしまいである。ここからはマップを見ながら、なんとなく周囲を散策することにする。ラッキーピエロを出て、函館明治館へ歩いて移動する。函館明治館は、明治44年に建てられた歴史的建造物で、以前は「函館郵便局」として使われていた建物が、現在はショッピングモールとして現役で活用されているとのこと。その建物を見学したくて向かうことにしたのだった。

 函館明治館は、赤レンガのノスタルジックな佇まいだった。夕刻の光に包まれた、ツタが絡まった赤レンガの壁が、長い時間の積み重ねを感じさせてくれる。当時は郵便局として、多くの人を迎え入れたのだろう。そして現代は、私たちのような観光客を招いている。未来は読めないものだと思う。もう少しじっくりと見たかったのだが、閉店時間なども考慮し足早に店内を見渡して移動する。

見ているようで、見えていないもの。

 函館明治館を出て、次に向かったのが「日本最古のコンクリート電柱」である。スマートフォンでマップを見ていた時に表示され「最古」というフレーズが気になり行ってみることにした。マップの案内通りに進んでいて、ふと気がついた。そう、つい先ほどイギリス領事館からベイエリアへ向かう途中に、この道を通ったのだった。

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 全く気がつかなかった。見えているようで見えていない。迂闊なものだとつくづく思う。1時間ほど前の私たちは「ベイエリアは、この先をまっすぐ行ったところだね」と話しながら、確かにここを歩いた。目先の情報に集中してしまうと、このように重要な情報を見落としてしまのだ。

 情けないものだ、と反省しながら角を曲がると、そこに大きな案内板が設置されていた。そこには「日本最古のコンクリート電柱」の文字。先ほどは、無視して通り過ぎたみたいになってすみません、と電柱に触れ、写真を撮った。これからは、うつむき加減ではなく胸を張って歩こうと思う。見ているようで、見ていないものが、たくさん存在する。私たちは「迂闊」な存在なのだ! これが、今回函館を観光して得た、一番の教訓である。

金森赤レンガ倉庫で、赤い夕日を見る

 電柱に別れをつげ、その先にある「金森赤レンガ倉庫」へ移動する。この名前の通り、本物の赤レンガのクラシカルな建物が立ち並ぶ「金森赤レンガ倉庫」は、函館観光のパンフレットなどに、ほぼ確実に掲載されている有名な観光スポットである。

 ベイエリアのシンボルともいえるこの建物は、明治の実業家・渡邉熊四郎氏が明治20年に倉庫業の始めたことがきっかけとなっている。この時に作られた倉庫群が、ショッピングモールと姿を変えたわけである。
 さきほどの「函館郵便局」の時も感じたのだが、100年以上経過しても、このように現役で存続し多くの人を魅了する仕事がしたいものだ、と思う。自分などに、そんな仕事ができるわけない、と客観的に考えることも事実だが、せめて志として育てていこうと思う。もしかしたら、何かが残るかもしれない。

 中に入り、入口近くの店でジェラートを頼んで受け取っていると、すぐ近くにいた外国人観光客の方が「わあ、いいわね。おいしそう!」といった感じで、ジェラートを持っている妻に向かって、にっこりとする。何か気の利いた言葉を返したいのだが、語学力に乏しい私たちも「おいしそうですよね!」という気持ちを込めて、にっこりとする。
 ジェラートを食べ、少しお土産を買い、倉庫から倉庫へと移動する渡り廊下で、夕暮れが迫る空と海の色が美しかったので写真を撮った。港町らしい風景だと思った。

やきとり弁当を、お持ち帰り

 これでベイエリアの観光は終了である。これから函館市電に乗り、函館駅に帰る予定なのだが、その前に寄りたい店があった。ハセガワストアである。
 今回、知人から「ハセガワストアの焼き鳥弁当は、食べたほうがいいです」と勧められたからである。函館駅前にも「ハセガワストア函館駅前店」があったのだが、昨晩、私たちが函館駅に着いた時には既に閉店してしまっていた(19時閉店だった)。
 そこで今回は、市電に乗る前にハセガワストアベイエリア店があったので、とりあえずここで「焼き鳥弁当」を買っておくことにしたのだった。つまり保険のようなものである。

 ハセガワストア ベイエリア店の正面には、実際の「焼き鳥弁当」のパッケージを巨大にした看板が設置されている。どこからどう見ても「ここがハセガワストアで、焼き鳥弁当を売っている店だ」と、間違えようのない門構えになっている。

 店内は、普通のコンビニエンスストアという雰囲気。ただ大きく違うのは、入口近くに厨房があり、そこでせっせと焼き鳥を焼いているということである。ちなみに今「焼き鳥」と書いたのだが、実際は鳥ではなく豚肉を使用している。
 豚なのに、なぜ焼き鳥なのか? 豚串ではないのか? と思って調べてみたところ「道南地域ならではの食文化」と解説されていることが多かった。文化、と表現されると、旅人はそれを受け入れるのがマナーであろう。そういうものだ、とそれ以上は調べずに納得する。

 ハセガワストアでは、注文してから焼いてもらえるので、待ち時間が発生する。私たちも、他のお客さんと一緒に30分ほど店内で待機することになった。ラッキーピエロもそうだったが、函館で「できたて」を提供する文化があるのだろうか。しばしできあがるのを待ち、そしてできたてを食べる。冷めないうちに、さあ、どうぞ。シンプルだけど大切なことだ。

 自分たちの弁当が用意されるのを待っているうちに、。あるものが欲しくなってしまった。ハセガワストアのバッチである。サイズとカラーリングが目に止まり、函館旅行の記念に2つ購入することにした。なぜ2つかと言うと、妻が自分の分と2つ買ってくれたからだ。
 ホテルに戻ってから、エコバックにつけることにした。そして、この文章を書いている今も愛用している。しばらくは今回の旅の思い出のシンボルとして、活躍してくれるだろう。

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函館駅前で、回転寿司を食べる

 焼き鳥弁当を入手した私たちは、市電に乗って函館駅へ戻る。ゴトゴトと揺れる車窓から見える、すでに暗くなった函館の街を眺めていると、どこかノスタルジックな気分になってくる。
 乗り合わせた人たちは、みな地元の人たちのようで、私たちと同じ観光客の姿は見当たらなかった。市電は、市民の日常の足なのだ、と当たり前のことを思う。10分ほど揺られ、左にカーブしたところで函館駅前に到着した。

 今回の夕食だが、昨晩は順番待ちで入店することができなかった。そこで今回は、市電を降たらすぐに順番待ちのチケットを入手して、時間までホテルで待機するつもりだった。店の前に行くと、昨晩同様順番待ちをしている人の姿があった。おそらく今日もしばらく待つことになるだろう。予定通り、一度ホテルへ行き「焼き鳥弁当」を食べることにする。

 蓋を閉め、串をくるくると回しながら引き抜くと、焼き鳥弁当の完成である。1つの弁当を妻と2人で分けて食べたのだが、今の私たちにちょうどいい量で、あっという間に完食してしまった。そしてふと気がついたのだが、パッケージ肉を焼いている豚のイラストが描かれているのだが、そうなんというか、よくよく考えるとシュールなイラストですね。

 弁当を食べ終えて、ちょっと荷物の整理でもするか、とぼんやり考えていると、昨晩よりもかなり早いスピードで、順番が進んでいることに気がついた。この調子だとあと30分もしないうちに、入店できそうな感じである。昨晩の経験を生かし、先に弁当を食べてしまったのだが、これはちょっと早まったかなと思いつつ、寿司は別腹だから大丈夫だろう、などとよくわからない理屈を展開しながら、タイミングをみてホテルから出た。

 20時を過ぎた函館の街は、人影も減りどことなくもの寂しい感じがする。前の方から歩いてきた集団の中に半袖の人がいて、半袖だとさすがに北海道は寒い、と話しながら横を通り過ぎていた。他の人たちは普通に長袖で、防寒用のジャケットを羽織っている人もいたので、この人だけが半袖で来てしまったのだろうか。誰も注意しなかったのか。あの人は言っても聞かないから、と判断されるタイプの人なのか。それとも?

人生初の北海道 2日目の夜が更けていく

 それにしても寒そうだよなあ、と思いつつ、ウィンドブレーカーを羽織った私は、少し背中を丸めるようにして店へ向かう。店の前の椅子に、年配の外国人の家族が「いやもう、いつまで待てばいいんだ」といったような感じで椅子にもたれかかっていた。
 さきほど私たちが順番待ちのカードを取りに来た時に、すでにこの方たちはこの椅子でこのような姿勢で待っていた。どのくらいの時間、待っていたのだろう。だいぶ待っていた気配があるけれど、すでに呼ばれたのに気がつかなかった、ということはないだろうか。

 そんな余計なことを考えながら、廊下に立って順番を待っていると、ほどなく店員さんに番号を呼ばれ、すんなりと店の中に入っていった。ちょっとほっとする。そしてそれから10分ほど過ぎたところで、私たちの番号が呼ばれた。

 カウンターに座り、温かい汁物を頼み、おすすめのネタを注文する。ここでこうやって、妻と食事をしていると、近所の店でいつものように過ごしているような気分になる。しかしここは函館で、私にとっては人生初の北海道である。今までで、最北端の地にやってきて寿司を食べている。
 今日は天候に恵まれた。明日も良い天気らしい。もくもく食べて、ゆっくり寝よう。そんな風にして、2日目の夜は過ぎていった。(☞つづく

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