オヨヨ書林と、ひらみぱん(高速バスで仙台→金沢への旅 No.9)

旅先で「古本を買う」ということ

旅先での楽しみのひとつが、古本屋をめぐること、である。ずっと探していた本に、ようやく出会えたよろこび。そして「この本は、旅先で寄った古書店で偶然見つけたんだ」と、旅のエピソード付きで楽しむこともできる。

以前、古書について、

「古書には人の手を渡っている物語があり、それをつないでいこうとする想い(のようなもの)が加わっていく。それが「紙」である限り、時間と共に劣化が進み原型を保つことは困難になる。しかし、そこには新しい物語が加わり豊かさを増していく。(古書を買う、ということより)」と、書いたことがある。

多くの人にとっては「ボロボロの古い本」でも、自分にとっては「旅先で見つけた思い出の本」になる。時々手にとって、装丁を眺めながら入手した時のことを思い浮かべつつ「あの店は、まだあそこにあるかな?」などと考えたりもする。それは自分にとって、地味だけど豊かな気配に浸れる楽しい時間のひとつだ。

今回の金沢旅でも、ガイドブックに紹介されていた「オヨヨ書林」へ寄ってみることにしていた。掲載されていた店の写真がいい雰囲気だったので、行ってみたいと思っていたのだ。限られた旅先の時間を、趣味の古本屋めぐりに費やすのは気がひけるのだが、幸いなことに連れが、すぐ近くにある「ひらみぱん」に行ってみたいというので、ちょうどよかったのである。

バスへ乗って「せせらぎ通り」へ

ひがし茶屋街からバス通りへ戻り、香林坊で下車。「せせらぎ通り」を通って目的地まで歩く。せせらぎ通りの名前は道に沿って流れる鞍月用水に由来するのだそうだ。さらさらと流れる水音を聞きながら、はじめての町を散策するのは楽しい。金沢は雨の日が多い、と聞いていたのだけど、幸いにして二日連続の晴天に恵まれたこともあり、こうやって気持ちよく歩くことができる。ありがたい。


そんなことを考えながら歩くこと数分。交差点のところに人が立っているのが見えた。あのあたりに何かあるのだろう、と検討をつけて近づいていくと「ひらみぱん」があった。店内で食べるために順番待ちをしている人が数人いたので、自分たちはパンを買ってどこかで食べよう、ということになった。店内は、こじんまりとしたスペースだったので、パン選びは連れに任せることにして、自分は「オヨヨ書林 せせらぎ通り店」へ行ってみることにした。

オヨヨ書林 せせらぎ通り店へ

オヨヨ書林は、ひらみぱん、のお隣さんだった。古本屋とパン屋さんという、自分の好きなものが並んでいるとは、最高のシュチエーションである。もし金沢に住んでいたならば、まちがいなく散歩コースのひとつになっているだろう。わくわくしながら、店内に足を踏み入れる。


Takahiro Sato


想像していたよりも、店内は広く感じられた。セピア色に日焼けした古い本の背表紙が壁一面に並ぶ、見上げるように高い本棚の前に立っていると「何かおもしろい本はないかな?」と、ずっと眺めていたくなる。実際のところ、何冊か気になる本があったのだけど、背負っているバックパックが、ここまでの移動でかなり重たくなっていた。紙の本のデメリットは「重い」ことである。しっかりとした装丁の本であれば、一冊だけでもかなりずっしりとくる。この重さを抱えて移動するのはつらいなあ、と迷いながら棚を見上げていると、パンを買ってきた連れが合流してきた。

連れは、気に入ったポストカードを見つけたようで何枚か購入していた。自分は、しばらく迷ったのだが「これ以上、重い荷物を持って移動するのは辛い」と考えた。最終日に時間があれば、もう一度こちらに寄れるかもしれないという考えもあった。脳内で、しばらく議論をした結果、購入を控えることにしたのだった。(しかし、結局のところ再びオヨヨ書林を訪問することはできなかった。「旅先で見かけた本は、その場で即決せよ」という教訓が、頭の中の忘備録に記載されることになった……)

木陰の下で、缶コーヒーを飲んで、パンを食べる

店を出て、近所を散策する。気になったギャラリーや立ち飲み形式のワインバーを覗きながら周辺を歩いていると、木陰の下にベンチが設置されているのを見つけた。周囲を歩いている人もいないし、風もちょうどいい感じに吹き抜けていく。「ここで、パンをひとつ食べよう」ということになりベンチに腰掛けた。


最初は「ひとつだけ」のつもりだったのだが、結局「うまい、うまい」と買ってきたパンを二人で、むしゃむしゃと食べてしまった。とりわけソーセージが挟み込んであるパンが絶品だった。連れには「くいしんぼうアンテナ」があるらしく「このパンは絶対においしい」と選んだそうなのだが、確かに間違いなくおいしかった。くいしんぼうアンテナは健在である。確かに、彼女が「ひょい」と選ぶものは、手ごろで美味しいものが多いので、その調子で、これからもその審美眼を磨いていただきたい。

この時点で時計は午後3時に近づこうとしていた。缶コーヒーを飲みながら、さてこれからどうしよう、と考えていると、本日宿泊予定のホテルがここから徒歩圏内であることに気がついた。まずはチェックインを済ませてしまおう。そして、荷物を置いて身軽になって移動をしよう。そう話し合って、まずはホテルに向かうことにした。(つづく

【目次】高速バスで仙台→金沢への旅

高速バスで仙台→金沢への旅 No.1(出発前夜)
高速バスで仙台→金沢への旅 No.6(能美市に宿泊)
高速バスで仙台→金沢への旅 No.7(近江町市場からひがし茶屋街へ)
高速バスで仙台→金沢への旅 No.8(宇多須神社から、宝泉寺へ)

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