【バリ島へ行った話(4)】ヴィラに泊まりたい。
・バリ島のヴィラに泊まりたい
今回のバリ旅行では「ヴィラに泊まってみたい」と思っていた。いや「ヴィラに泊まる」と決めていた。いつ、どのタイミングでそうなったのか忘れてしまったのだが、私の中では「バリ=ヴィラ」という図式が成立していた。もしもバリへ行くならばヴィラへ泊まりたい。高級なヴィラは無理でも、そこそこ(?)のところに泊まってみたい。一般庶民の目標として、そんなことを考えていたのだった。
旅行代理店で相談すると、オススメのヴィラを提案してくれた。その中で今回予約を取ったのが「マカ ヴィラズ&スパ ウマラス」である。1ベットルームで、専用プール付き。写真を見ると、いかにもリゾート地というような、綺麗で整えられた雰囲気に見えた。
しかし、年齢を重ねて中途半端に経験を積んでしまい、性格がひねくれた私の頭の中には「この写真はあくまでもイメージだろう。演出された映像だろう。日本のホテルでこの値段だと、まあそこそこかな。でもヴィラはヴィラだし、予算内だし、ここでいいだろう」と考えていた。
つまり、あまり期待しすぎないでおこう、と期待値にブレーキをかけておいたのだった。人生において「期待し過ぎない」のも処世術のひとつである。楽しみにする、と、過度に期待するは、似ているようで違うものなのである。
・バリへ到着 車とバイクの喧騒の町
バリ島初日、私たちがヴィラに到着したのは、午後8時過ぎだったと思う。空港からヴィラまでの道は、想像以上に混雑していて車とバイクのクラクションが響くような騒然とした雰囲気だった。今回は空港からヴィラまで、事前に車を予約(カーチャーター)していたのだが、移動中に車が停車した瞬間、車の周囲をたくさんのバイクが取り囲んでいく。
2人乗り、または3人乗りのバイクがぐいぐいと隙間に割り込んできて、車も対向車線にはみ出して無理な追い抜きをかけてくる。恐怖を通り越して、よくこれで事故らないものだなぁと感心してしまうような混雑ぶりだ。
運転手さんは日本語ができる人だったので「いつもこんな感じですか? これで事故らないんですか?」と日本語で質問すると「時々事故ることもあります。でも大丈夫です」と返ってきた。バリ在住のTさんに「最近のバリは渋滞が酷い」と事前に聞かされてはいたが、想像以上の混雑と喧騒だった。それが私のバリの第一印象だった。
ところがヴィラのある場所に近づくと雰囲気は一変した。大通りを曲がり細い道に入ると一気に交通量が減っていく。喧騒が遠のき周囲が暗くなり、逆にちょっと危ないような気配になってきた。どこまで行くのだろう? 代理店のスタッフの人に「このあたりは、夜は出歩かないほうがいいと思います」と言われたのだが、確かにそうかもしれない。バリ島の雰囲気に包まれてリラックスした気分になっていたが、ここは外国なのだ、気を引き締めなければ、と思う。
・言葉はわからないけれど、伝わる感覚
しかしセキュリティーゲートを通り、ヴィラの敷地内に入ると、一気に落ち着いた気配に切り替わった。きちんと整備され、管理されている区画に漂っている安心感。受付でチェックインの際に、朝食のメニューの希望を書いて提出しなければいけなかったのだが、いまひとつよくわからなくて困っていると、カウンターにいた女性が私たちの前にやってきて「何かわからないことがあるか?」というような表情で覗き込んできた。言葉はわからないのだけど、なんとなくそういうのが伝わってくる。部屋に案内してくれたポーターも「ここがあれで、それがこれです」と、敷地内をぐるりと説明してくれた。セキュリティーボックスの設定がわからなかったので「申し訳ないんだけど、一回試しにやってもらえるか」と、私がつたない英語でお願いするとオーケーオーケーといった感じで、こうやってこうするとこうです、ではやってみて、と丁寧に教えてくれる。Wi-Fiのパスワードは? と質問するとパスワードを入れなくても接続できるよと、説明してくれた。
今「説明してくれた」と書いたけれど、実は言葉はほとんど理解できていない。もちろん私の語学力に問題があるのだが、私が片言の英語で質問すると向こうも手振り身振り付きで示してくれて、それが何だかよくわからないのに意味が伝わってくるのだった。もしかすると、こちらが日本語で話しても、ちゃんと理解してもらえるのではないか、と錯覚してしまうような感じ。英語がネイティブではない同士が会話をすると、このような感じになるのだろう。これは面白い感覚だった。
ポーターと入れ替わりに、ウェルカムドリンクが部屋に届けられた。笑顔の爽やかな女性スタッフが入ってきて「どこから来たの?」と、にっこりとする。日本からですよと答えると、ああ、そうなのね、という表情をする。本来ならばこの後に一言二言、気の利いた言葉を続けたかったのだが、私の語学力ではそこで終了してしまう。彼女は「楽しんで!」と部屋を出ていく。ありがとう、と声をかける。
バリに到着して、まだ2時間程度しか経過していないのだけれども、既にもう来て良かったと感じていた。葉の緑が鮮やかなドリンクを飲みながら、妻とライトアップされた庭とプライベートプールを眺めながら乾杯する。アルコールは入っていないが、なんとなくほろよい気分である。
今日は泳ぎたい気分ではないけれど、朝になったら泳いでみようか。でもバリとはいえ朝のプールは冷たそうだな、と思う。まだ夕食を食べていなかったので、もう少ししたらヴィラのレストランへ行ってみようか、などと話をする。そして彼女が口にした「楽しんで!」という言葉を頭の中で繰り返す。そうだな、楽しまないといけないな、と肩の力を抜いてドリンクを口にした。バリへ来てよかった、と思った。(つづく)
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